3月で連載終了した「山岳遭難防止術」に引き続いて、今月からまた『週刊ヤマケイ』で連載を始めました。
タイトルは「登山者のブックシェルフ」。
私が読んだ山の本の中から、読んで面白いと感じたものや、自分が登山をする上で影響を受けたものを選び出して紹介する、といった内容です。
第1回目は、以下のリンク先から読むことができます。
▼「登山者のブックシェルフ」第1回目が掲載されている週刊ヤマケイ
週刊ヤマケイ2017年10月5日配信通巻264号
こちらに書いてある通り、今回は私が本格的な登山の入り口に立ったときに、その登山に同行した杉浦くんという友人から勧められて読んだ5冊の本を紹介しました。
ただし文字数の関係もあってあまり自分の感想を書くことができなかったので、以下に補足したいと思います。
なお本の表紙画像は、すべてAmazonへのリンクとなっています。
『山男たちの死に方――雪煙の彼方に何があるか』

ノンフィクション作家の山際淳司氏が書いた、読みやすい本です。
この本が出版された、1983年以前のアルピニズムというか、先鋭的登山の概要をつかむには良い内容だと思います。
ただしテーマは、タイトル通り山での死。
まえがきで引用されているジャン・コストというクライマー(ちなみにこの人も若いうちに山で死んでいます)の言葉をここにも引用します。
どう考えても山における死はひとつの特権なのだ。それは無駄な死ではない。最も力強い物象の真只中で、全力をつくして闘っているときに、生命を失う事は、死に甲斐のある事なのである。
まさにこの言葉が、この本の内容を一言で言い表していると言えるでしょう。
ただ、少々山での死を美化し過ぎのように感じないでもありません。
なおこの本には、以下の4人(森田勝氏、松田弘也氏、小西政継氏、加藤保男氏)ともが登場しており、これから山の本を読んでみようという方の最初の1冊には良いと思います。
『狼は帰らず――アルピニスト・森田 勝の生と死』

ノンフィクション作家の佐瀬稔氏が書いた本で、こちらも読みやすく仕上がっています。
登山界で“一匹狼”と称された森田勝氏の、力強い登山への取り組みを追った名著です。
この人も最後は、ヨーロッパアルプスのグランドジョラス北壁で墜死するのですが、死そのものよりも、生き方を中心に取り上げられていて、非常に共感できる内容です。
この森田氏は、山に登る時間を作るために次々と職を変えているのですが、仕事よりも山を優先するそういった姿勢に影響を受けて、私も30代前半まではかなり職業は転々としたものです。
それでも私は登山に対する取り組みは甘くて、大したクライマーにはなれなかったのですが。。
『ミニヤコンカ奇跡の生還』

1982年の千葉県の市川山岳会による中国のミニヤコンカ山の遠征隊で、アタック隊員だった松田宏也氏の手記。
とは言いつつも、別のライターが手を加えているので純粋な松田氏の著書ではなく、少々過剰な状況描写になっています。
それでも内容は強烈で、登頂を断念して下山するものの遭難状態に陥ってしまい、食料も燃料もないなか、幻覚を見ながらも奇跡的に生還するという壮絶さ。
特に下山中に、雪稜の上に赤い鳥居(日本の神社にあるやつです)の姿が現れる場面があるのですが、極限状態に陥るとそういうものまでもが見えてしまうのかと、読んでいてゾッとしました。
『グランドジョラス北壁』

1980年前後、日本の先鋭登山を牽引していたに違いない、山学同志会の小西政継氏。
その小西氏が1970年12月にヨーロッパアルプスのグランドジョラス北壁を登った際の手記です。
このときは途中で大寒波につかまって、メンバー6人のうちの4人が凍傷を負い、全部で27本の指を切断することになったという、やはり恐ろしい結末です。
個人的にはこういった難易度の高いルートに6人という大人数が連なって登ったのが良くなかったのではないか…と思うのですが(通常はこういったルートは2人か3人で登るものです)、何かそうしなければいけない理由があったのでしょうか?
なおこの本は専門のライターではなく、小西氏自身が書いたものです。
けれども小西氏は非常に文章が上手な方であり、とても読みやすく仕上がっています。
『雪煙をめざして』

存命時には芸能人に匹敵するくらい、人々から大きな注目を集めていたという加藤保男氏の著書。
爽やかな内容で文体は素直ながらも、ちょっと書き慣れていないのかな?という印象も受けます。
それでもヨーロッパアルプスやヒマラヤに精力的に通い続ける、その内容には驚きを感じました。
この方が亡くなったのは、1982年の12月。
冬のエベレストに登頂し、そのまま下山しなかったのです。
そのことはニュースでも大きく取り上げられていたみたいですが、当時高校生だった私はまだ登山にはまったく興味がなくて、そのニュースを耳にした記憶はありません。。
『岳人列伝』

上記5冊の本を貸してくれた杉浦くんからは、実はもう1冊、本を借りていました。
それがこの『岳人列伝』、少年サンデーで不定期連載していたマンガをまとめたものです。
マンガなのでつい割愛してしまいましたが、文字数に限りがなければこれもぜひ紹介したい本でした。
ただしやはりテーマはクライマーの死。
いや、死ぬことが解っていても登らなければいけないと感じるクライマーの業、と言ったほうが正しいのかも?
なかなか心に迫ってくる内容ではありますが、この本の登場人物みたいな気持ちで山に向かったら、早死にするのは間違いないでしょう。
フィクションとして読む分には、とても楽しめると思います!
「登山者のブックシェルフ」、第2回目は明日配信される『週刊ヤマケイ』に掲載されます。
こんどは上記6冊とはまったく傾向の違う本を紹介しますので、そちらもぜひ読んでみてくださいね。
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